表紙の小さな物語

2019.12.6

創業約50年の老舗ジャズ喫茶で。さかいかんなさん。

2020年1月号(183号)表紙

 純喫茶が好きで、気になった店を巡ることもあるという、山形市在住のイラストレーター、さかいかんなさん。今回は、山形駅前の大通りから少し入った小道に店を構えるジャズ喫茶「OCTET(オクテット)」へ。
 中は少々薄暗く、むしろそれに安心感を覚える。壁にずらりと並ぶレコードやCD、大きなスピーカー、ピアノ、ライブのフライヤーなど、ここだけジャズブームの時代から時間が止まっているかのようなレトロな空気に、さかいさんもリラックスしつつ興味津々の様子。

 

 そんな様子に、今回の特集「時代を語る、やまがたの大人の社交場」にも登場いただいた店主の相澤さんは、さかいさんを含めた我々に、ニューヨークのジャズ喫茶に行ったときの話を織り交ぜながら、ジャズの歴史や醍醐味についても語ってくれた。
 ジャズにはもちろん特有のノリや和音があるが、ジャズは音楽のジャンルというよりは、演奏スタイルのこと。そしてその醍醐味はなんといっても〝アドリブ〟だ。どんな楽器も、もちろんヴォーカルもアドリブをするのだが、演奏者による曲のとらえ方、表現の違い……つまり、その曲をどう料理するかを楽しむ音楽、それがジャズなのだ。
 もともとジャズは、奴隷としてアフリカからアメリカへ連れてこられた黒人たちが、アフリカの音楽と西洋の音楽を融合させたものが発祥といわれている。自分たちの文化を奪われ、つらい労働に身をやつさざるを得なかった奴隷たち。そんな彼らが自由になれたのは、歌ったり、踊ったり、楽器を演奏したり、祈ったりしているときだった。ジャズにはアフリカのリズムや労働歌、黒人霊歌など、さまざまなエッセンスが含まれているが、そんなスピリットを内包するジャズへのリスペクトなのだろう、アメリカにはジャズブームに湧いていた当時の景観をそのまま残したストリートや店舗もあるというから驚きだ。

 

ジャズについての本や、「OCTET」ができるまでを語った相澤さんの著書が並ぶ店内。

 

 また、相澤さんは、普通の喫茶店としてオープンした山形の古い喫茶店が、ジャズ喫茶へと変わっていった話もしてくれた。山形に喫茶店があるのがまだ珍しかった時代。店を訪れるジャズ好きの客がレコードを持ち込み、ジャズ喫茶へと育っていったのが、同じく山形市内にある「コーヒー園」だという。そういった時代を見て体験してきた相澤さんが開いたこの「OCTET」もまた、ここでしか聞くことのできない貴重なレコード、そして相澤さんとの話を楽しみに、県内はもちろん、県外からわざわざジャズ好きを中心にさまざまな人が訪れる〝社交場〟になっていったのだ。
 自分たちの心を解放してくれるものを、自由に楽しめる場所・ものを、自らが動いて生み出すということ。ジャズの起源にも通じるような話に心惹かれていると、ボールペンを片手に、さかいさんが手を動かしている。

 

 

 そのときに感じたことをイラストにして、お店に残していくこともあるというさかいさん。その〝アドリブ感〟はジャズにも通じるものがあるのではないだろうか。そんなさかいさんと「OCTET」の出会いに、なんだかひっそりと喜びを感じた。

 

食べ終えたピザトーストの下に敷かれたペーパーナプキンに描かれた、さかいさんのイラスト。

 

 一杯ずつドリップされたコーヒーと流れる音楽を味わいながら、ゆったりと丁寧に時間を過ごしていく感覚が心地よい。そんな11月の終わりだった。

 

楽しそうに、愛おしそうに、ジャズについて語る相澤さんに、思わず笑みがこぼれてしまうほど。

 
 
 

2020年1月号(183号)時代を語る、やまがたの大人の社交場。
さかいかんなさん、相澤榮さん
山形県山形市

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