特集の傍流

2021.4.28

捨てられる端材に新たな価値を。唯一無二の木片に命を吹き込む。

2021年5月号(199号)大人の筆箱計画。
有限会社佐藤工芸 代表取締役:高橋裕子さん
山形県天童市

 全国の9割以上を占めるといわれる天童市の名産品、将棋駒。かつては手彫りが主流だった将棋駒も時が経つにつれ、職人の高齢化や時代背景により効率的な生産が求められるように。『佐藤工芸』はいち早く、数値制御による機械のNC加工を用いた将棋駒の量産に着手。土産物として重宝された飾り駒を、ピーク時は1日200〜300個生産していたという。そんな折に、リーマンショックの波が押し寄せ、廃業の危機に直面してしまった。

 

数値制御により精度が安定するNC加工だが、使用する木材は多種多様。細かな調整は職人の技量が試される。

 

慣れた手つきで巨大な糸鋸を操る頼もしい後ろ姿は、工場長の鈴木徳行さん。

 

 そんな苦境のなかで必要性を感じはじめたのがオリジナル商品の開発だ。県の工業技術センターに相談し、県内外のデザイナーとも交流が広がった。そして、おもな事業である家具部材加工で生じた良質な木の端材をステーショナリーに昇華させ、「mokuhen」というシリーズを展開。トレーがペン立てに、カードスタンドがマグネットに、と2つの顔を持ち合わせた機能性は、遊び心と「使う人を笑顔にしたい」という想いが込められている。組み立てロボットを想起させる造作は男性からも人気で、贈り物にも喜ばれるそう。木材だからこそ、同じ表情のものは一切存在しない。世界にたったひとつ、という魅力が確かにそこにある。

 

スリムでスタイリッシュな形を目指したという、一番人気のカードケース。独自の薄さと滑らかなスライド機構はNC加工の賜物。約20枚収納可。7,700円〜。

 

木材の温かみがデスクに彩りを与えてくれる、ペンスタンド/トレイ。2つのパーツを閉じるとペンスタンドになる。3,850円〜。

 

上のペンスタンドを開いて、横につなげるとトレイに。埋め込まれたマグネットでピタッとハマる感覚がクセになる。

 

定番の工芸品が“令和らしく”生まれ変わった「左馬NEO」。色紙と木材の積層合板を用い、カラフルでポップなかたちに。昔から福を招き入れる縁起物として飾られており、新築祝いなどの贈り物にも。『吉野敏充デザイン事務所』(新庄市)との共同開発。

 

 代表取締役の高橋裕子さんは、「加工から塗装、納品まで一貫して自社で行えるのが弊社の強みでもあります。社員一同『いいものを作ろう』というベクトルが同じだからこそ、無理難題にも物怖じせずにものづくりができています」と話す。高橋さんは、2019年に社長職を継いだ3代目。先代の社長と血縁関係があるわけではなく、相談を持ちかけられた時は「自分に務まるだろうか」と相当悩んだという。そんな時に高橋さんの脳裏に過ぎったのは、今まで関わってきたお客さんの顔。「ここで私が継がずに会社をたたむのは、お客さんに対して無責任ではないか」と高橋さんは奮起し、自身の持つ営業力と現場で培った技術を武器に、更なる商品開発や取引先の開拓に励んでいる。近年、国産の木工品は、安価な外国産のものに圧され、高齢化に伴い廃業も多くなっているという。「そんな状況がもったいなく、もどかしいと感じます。私たちのものづくりを通して少しでも貢献できれば」と高橋さん。

 

木材加工に用いられる、さまざまな形の付刃。模様づけや縁取り、取引先のさまざまなニーズに答えながら職人たちが美しい逸品を生み出す。

 

山形市七日町の雑貨店&カフェ『この山道を行きし人あり』では、『佐藤工芸』のmokuhenシリーズ、左馬NEO、天然木の一枚板で仕上げた陰陽トレイを豊富に扱う。

 

 コロナウイルスが蔓延する前は、ワークショップや端材の販売会を積極的に行っており、高橋さんはそこで触れ合う“ものづくりが好きな人たち”に刺激を受け、励まされたそうだ。ゆくゆくはそんな人たちに向けて、工作ができるフリースペースを設け、工場見学も行い、ものづくりを通して交流を深めるのが夢だという。また今後は、雇用を増やして次世代の技術者を育てていきたいと語る高橋さん。「いいものを作ろう」という“佐藤工芸マインド”の継承者が現れることを切に願うばかりである。木材が持つ唯一無二の魅力と、無限の可能性。そしてそれらを輝かせる職人たちの加工技術は、山形のものづくりに欠かせぬ貴重な財産だ。

 

佐藤工芸)山形県天童市北目3-2-2

TEL:023-653-3164

https://satokogei.jimdofree.com

2021年5月号(199号)
大人の筆箱計画。

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