特集の傍流

2016.6.8

鳥海山の山嶺に豊かな伏流水として湧き出す、自然の恵みを訪ねて。

2016年7月号(141号)いざ、癒しの地へ。
遊佐 鳥海山里山ガイド 石垣富増さん
飽海郡遊佐町吉出、飽海郡遊佐町直世

遊佐町は全国でも有数の「湧水の郷」として知られているが、その要因となるのが、秋田県との県境にある「鳥海山」だ。日本海からいっきにそびえ立つ2236メートルの峰は、海からの強い風を受け、多量の雨や雪が降り注ぐ。そして、それらの風雪は地下に浸透し、長い年月をかけて豊かな伏流水として湧き出すのだ。

 

古くから地域の信仰を集めてきた鳥海山が生んだ神の水。

鳥海山は出羽国一宮として崇められ、古くから山岳信仰の対象となった山である。「出羽富士」とも呼ばれ、山麓周辺の人々の守り神として、古くから崇められてきた。周辺の人々の生活の背景にはいつも鳥海山があり、信仰の山としての存在も大きく、その姿の美しさとともに心の支えにもなっている。

そんな鳥海山がもたらす豊かな湧水の自噴スポットのひとつに、古くから地域の信仰を集めてきた水場「鳥海三神の水」がある。月光川ダムから、さらに5分ほど車で登った三の俣(みつのまた)という集落にある、遊佐町を代表する湧水の一つだ。

184A2921_resize

水源は100メートルほど上にあり、「体験実習館さんゆう」が建てられたときに、敷地内にこの水をひき、汲みやすいように整備されたもので、豊富な湧水量を誇る。平日でも途切れなく水を汲みにひとが訪れ、大量に持ち帰るのに適した場所になっている。
184A2917_resize

ポリタンクに大量の水を汲む男性に話を聞いたところ、1か月分の飲用や料理用の水を汲みに来たという。「米を炊くときにも使いますが、旨味が全然違います」とのこと。わざわざこの水を汲みにくる魅力がそこにあるのだろう。なにより、ここに辿り着くまでの景色も素晴らしく、天候が良いと遙かに日本海が光って見渡すことができる。季節の移り変わりが車窓から楽しめるのも、癒しのポイントだ。

「体験実習館さんゆう」道中にある月光川湖ダムにかかる橋。

「体験実習館さんゆう」道中にある月光川湖ダムにかかる橋。

 

184A2908_resize

 

184A2910_resize

乗用車がぎりぎりすれ違うことのできる小道の傍に広がるのは、まさに古き良き日本の風景といった感じだ。

 

遊佐町内中心部の遊佐元町地域でも沢山の自噴井戸があり、その数は300箇所以上にもおよぶ。1日の総湧出量は約4200トンと推定され、人々や数多の生物の営みを支えてきたのだ。

1996年には「水の郷百選」(国土交通省)に選ばれ、水に密着した生活を形作る湧水の郷として、広く知れ渡ることとなった遊佐町。自然が作った環境と、それを守ってきた人々の努力があってこそ、その豊かな水の恩恵を受けることができるということに感謝したい。

 

遊佐の湧水が生んだ、太古を思わせる神秘の池。

 

184A2906-2_resize

幻想的なエメラルドグリーンが輝く様に、思わず息を呑んでしまう。池を取り囲む樹々も、藤が絡みついた枝が複雑にうねっており、見る者をまるで太古の世界に迷い込んでしまったかのような気にさせる。
湧水の郷、遊佐町に「丸池様」はある。鳥海山の湧水だけで満たされた池そのものが御神体であり、池を荒らすと田畑が荒れ、目が潰れると言われるなど、古くからの地域住民の信仰の対象となっている。

直径20〜30メートル、水深3.5メートルの池を満たす水は冷たく、澄んでいる。光の加減で微妙に色を変える池を覗くと、倒木が沈んでいるのが見え、底の方からポコポコと水が湧いているのが確認できる。湧き続ける水によって、水温が低いまま一定に保たれているため、樹が朽ちずに残っているのだ。

実に様々な話が伝わっている丸池様。 前九年の役(後三年の役とも)で鎌倉権五郎景政が敵に片目を弓で射られ、この池で目を洗って以来、この池に棲む魚はみな片目になったという話がある上、白蛇が棲むという伝説や、池の水を目につけると目が良くなるという話が語り継がれている。

実に様々な話が伝わっている丸池様。
前九年の役(後三年の役とも)で鎌倉権五郎景政が敵に片目を弓で射られ、この池で目を洗って以来、この池に棲む魚はみな片目になったという話がある上、白蛇が棲むという伝説や、池の水を目につけると目が良くなるという話が語り継がれている。

 

池を臨むように、丸池神社の本殿が建つ。拝殿は別にあるので、参拝するときはそちらを拝みたい。

池を臨むように、丸池神社の本殿が建つ。拝殿は別にあるので、参拝するときはそちらを拝みたい。

 

意外と地元でもこの場所を知らない人がいるというから驚きだ。案内してくれた、鳥海山里山ガイドの石垣富増さんによると、縄文時代より存在するというこの池は、その昔、落ちたら上がって来ることができない「底なし沼」と言われていたという。子どもの頃は、拝みながら近くを走り抜けていたと苦笑する石垣さんは、「今でも池を前にすると、背筋が伸びるような感じがする」と語る。

 

今回ガイドをしてくれた、遊佐鳥海山里山ガイドの石垣富増さん。

今回ガイドをしてくれた、遊佐鳥海山里山ガイドの石垣富増さん。

 

「地元の人間にとってはどうってことのないものでも、やはり注目されると嬉しいもの。郷土愛というんでしょうか、そういうのが湧きます」と石垣さんは微笑む。

「地元の人間にとってはどうってことのないものでも、やはり注目されると嬉しいもの。郷土愛というんでしょうか、そういうのが湧きます」と石垣さんは微笑む。

 

184A2894_resize

 

池の周辺は、縄文時代から現代までの水に関する信仰文化が残る貴重な史跡であるが、映画「スノープリンス 禁じられた恋のメロディ」(2009年)や、「十三人の刺客」(2010年)のロケ地にもなった重要な観光地であり、さらに現在はパワースポットとしても人気だという。その言葉に迷わず頷いてしまうほど、自然の神秘さを強く感じる場所だ。

関連記事

上へ