特集の傍流

2017.2.15

地域の手仕事文化を、次に伝えていくこと。

2017年2月号(148号)雪国の暮らしと雪調。
工房ストロー 主宰 髙橋伸一さん
とんがりビル(山形市七日町)

「雪調」における雪害克服運動という、大きなうねりに昇華された民芸運動。そこでは、先の記事にて紹介したように、長い年月を経て人々の暮らしから生み出された民芸品の数々が多くの人々の目に触れ、広まり、親しまれていった。しかし現在、それらの多くは使われることなく、また、作り方のすべてが途切れることなく継承されているとも言い難い。
そんな民芸品の魅力を、今に伝える人がいる。真室川町を拠点に活動している「工房ストロー」の藁細工作家・髙橋伸一さんもそのひとりだ。農家の冬季の収入につなげるためという目的もあり、かつては注目された藁細工づくりを、今伝えていく意義とは。
山形市七日町「とんがりビル」にて企画展示「農と業」を開催していた(当時)髙橋さんを訪ねた。

 

地域の「宝」を引き継ぐ、現代の藁細工作家。

髙橋伸一さん)2016年、20年以上勤めた町役場を退職し、「工房ストロー」を立ち上げる。地域の「宝」の継承・発展を目指し、日々活動中。

髙橋伸一さん)2016年、20年以上勤めた町役場を退職し、「工房ストロー」を立ち上げる。地域の「宝」の継承・発展を目指し、日々活動中。

 

ご実家が農家でもある髙橋さんは、代々、循環型の農業を続けていて、「農業の先にある手仕事」としての作業をされている。この藁細工づくりもそのひとつだ。
「農家の昔ながらの暮らしというのが今、段々無くなってきているというか。専業だったものが分業化して、一軒の農家が循環型の農業をすることが少なくなって。外で働いて、冬は手仕事をして、みたいな暮らしがあった時代が一般的な農家の姿だったんですけども、そういった農家がなくなるのはちょっともったいないっていうか。もっとそういうのが必要なんじゃないかなとか」

 

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藁細工で使う稲藁も全て髙橋さん自ら育てている。素材を作る技術も、手仕事の技術の内なのだ。

 

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稲は種類によって草丈や太さ、色や食感、強度が異なる。それぞれの部位によって適した使い方があり、それぞれの素材によってまた仕上がりが変わってくる。

 

会場には、展示の名称である「農と業」の言葉を体現するように、藁だけでなくドライフラワーや干されたトウモロコシなども。藁細工づくりといった手作業は何ら特別なことではなく、「暮らしの中の一部」であることを実感させてくれる。

 

 

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そんな髙橋さんが藁細工を作り始めたきっかけは、「すごいな」というただの感動ではなく、不安も織り混ざったものであったという。

「今までにも藁細工を見る機会はあったんですけど、綺麗だな、すごいなというだけでなく『実際にこれを作ることができるかだろうか』と思い始めた、そのあたりが切り替えのタイミングでした。藁細工への見方が変わりましたね」。

 

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髙橋さんの作品のひとつ。藁を編んで作られた、雪の結晶、馬や蛙など、どれも手のひらに乗せられる大きさの可愛らしいものだ。

 

藁細工はもちろん、見ただけで作り方を理解できるものではない。

「(藁細工は)ちゃんと覚えないと全然作れないものなので、ちょっとこれはすごい代物だなって。それを今作れる人がいるのに、次世代の人が作れない。作れる技術を全然受け継いでいない。後継者がいないという現状を知ってから、『これを今のうちに誰かが習わなければいけないんじゃないか』という使命感を感じたんです。ただただ感動を受けたんじゃなく、不安みたいなものと似ていましたね。こんな凄いものが今までに何年も、何十年もかかってこの形になったんだろうから、それを無くしてしまっていいものかなと」。
物腰柔らかな方だが、藁をなう眼差しは真剣そのものだ。

 

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藁細工の技は、師匠である伊藤佐吉さんをはじめとした、地域の古老を訪ね歩いて手ほどきを受けた。しかし、藁細工を生き残らせていくには、現在の暮らしの中でも使えるような形にしなければいけない。

「昔の人は民芸品の見た目ってあんまり気にしていないところがあって、機能だけというか。例えば唐辛子を編むにしても、昔は用途に合わせて藁を選んだりするということはしなかったんです。とりあえず用を足さなければならないから、そこにあるものをなんでもいいから使うというような感じで」

 

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「実際、そのままでも自然と綺麗には見えていたけど、よく見るとちょっと不揃いなところなどがあったりして。でもこれを、藁の種類や部位を選んで、見た目ももっと綺麗にすれば、〝ただの藁を保存しておいて作ったもの〟だけじゃなくて、インテリアとしても見えたり使えたりするんじゃないかって発想はありますよね」

 

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人気商品の「ミニチュア鷹の爪」。魔除けのためにと稲穂のついた大きいタイプもあるが、小さくてどこにでもかけられることや、見た目のかわいさなどからこちらがより人気だという。

 

「そういうふうに、その時代その時代で求められるものがあると思うので、次世代に残すためにも、その時代に合わせたものを作ることを模索しています」と話すように、「卵つと」(※卵を持ち運びするためにつくられたパッケージのこと)をアレンジしたインテリアや、元々は虫かごに使われていた螺旋のデザインを用いたランプシェードなど、教わった昔ながらの技法を生かしつつ、今の人にも受け入れやすいようにと自己流にアレンジされた作品は、確かに「古き良き民具」という感じではない。どれも手作業ならではの温かみを感じさせ、自分の生活の中に取り入れてみたいと思わせられるものばかりだ。

 

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しかし、「昔からずっと藁細工を作ってきたおじいちゃんみたいな人は、自分たちの作ったものがそんなすごいものだと思ってないんですよ」と髙橋さんは続ける。

「じいちゃんたちは、『藁細工なんて昔のもので、そんなの今更やったって何の役にも立たねえべ』みたいな思いなんです。暮らしの中に、大量生産で安く速くいろんなものが出てきているので、『藁で編んだ籠よりビニール袋の方が軽いし中身も見えるし、百円ショップに行けば長持ちする立派な袋がいくらでも買える』って言うわけです。自分たちの技術とか、引き継いできたものをいいものと思ってないみたいなんですよ。

藁細工づくりを始めてから『ええ? 藁細工?』みたいなことをじいちゃんたちに言われたこともあって、『そうじゃなくて、今だからこそこれなんだ』と私は思って、そういうことをおじいちゃんたちに伝えながらやっているわけですけども、そういった世代間の感覚の違いが伝承を妨げているっていうのは思いますよね。でも当のじいちゃんたちは『藁細工なんて昔のもので、まんずこんなもの覚えたって今更なんの役にも立たねえ、一銭の役にも立たねえ』みたいなこと言うわけです」。

それは、それだけ藁細工が安く売られてしまっていた時代があったということも理由だろう。そう言うと、頷く髙橋さん。

「確かに、三日も四日もかけて作った藁細工が千円くらいで売られているから、『じいちゃん、それ、その値段で売れっかや、それ作んのに何日かかった?』って言いたいよね。じいちゃんは『俺なんてこれ暇つぶしで作ってっから』なんて言うけども、いやいや、その価値じゃきかないよね、って。

そういうふうに、自分の技術の価値に気づいてないんです。おじいちゃんおばあちゃんには、そういう情報が届かないんだもの。そこはこれからの課題でもあるかなと思います。課題というか、私ひとりがどうこうするってものでもないんですけど。藁細工づくりが生きがいになるならないにしても、じいちゃんばあちゃんの〝これから〟を盛り立てていかないと、と思います」

 

工房で開催している藁細工づくりのワークショップの様子。作る喜びを体感しながら、人々がつながっていく。

 

「でも今の若い人達は、逆に『藁細工や手作りのものの方がいい』と言う人もいるわけじゃないですか。そのあたりの世代間の、同じものを見たときの温度差もありますよね。そういったものも面白いと思います。藁で編んだなべ敷きが、若いある方にはクリスマスのリースに見えたりして。ああ、そういう視点もあるのか!と。実際、世界には藁で作られたクリスマスのオーナメントもありますしね」

実際、髙橋さんの作品たちを見て、藁細工を真新しいものと感じる若い世代は「可愛い」「綺麗」と目を輝かせ、ご年配の方は「懐かしい」と喜ぶそうだ。「工房ストロー」では藁細工のワークショップも開いているが、参加された方は嬉しそうにして帰っていかれると髙橋さんは話してくれた。

「こう、達成感があるんでしょうかね。今まで買ったり見たりすることが多かったのに、こういったほうきやなべ敷きといったものが自分にも作れるんだということが分かると。でも〝その作れる喜び〟や感動を経験してもらうことはすごく重要で。それが藁細工の後継者の発掘にも繋がっているんじゃないかなと思ってるんですけども。そういった期待もしつつ、ワークショップは続けていきたいと思いますし、まだこういった手仕事も注目されていければいいなと思いますね」

 

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「本当に、やりたいっていう思いがある方が多くて、藁細工も捨てたもんじゃないと思います」と髙橋さん。

 

「ですから、百人のうち一人でも関心の高い方につながるだけでも十分だと思ってるんです。そういった方がちょっとずつつながって増えていけば、藁細工という手仕事の文化も廃れずに残っていくんじゃないかなと」。
そう語る髙橋さんの思いによって作られる品々。その一つひとつに、我々が大切にすべき地域への愛、ものへの愛、さらにはそれを作る人への敬意が、ぎゅっと詰まっているように見えた。

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