特集の傍流

2019.11.7

言葉ひとつに垣間見える、その土地の文化や歴史。方言には、たくさんの情報が詰まっていました。

2019年12月号(182号)やまがたと方言。
山形県ことばと文化研究会 会長 菊地仁さん、山形大学 人文社会科学部 教授 中澤信幸さん 
山形県山形市

 土地ごとに育まれた方言だからこそ、その地域の文化や歴史が背景となっているケースは多い。例えば置賜方言は、上杉家の影響により、他地域に比べると敬語の方言の発達が顕著という研究結果もあるという。また、江戸時代に藩主が頻繁に入れ替わった村山地方は、その影響もあってか、語彙などでは複雑な形成が見られると指摘されている。新庄を中心に形作られている最上地方の方言は、北部や西部は庄内や秋田の影響も受けており、村山地方との類似性も見られるのは交流が盛んだった証だとか。庄内地方は青森や秋田、新潟県北部に通じる特徴、海上交通による上方語の影響も見られ、穏やかな語調で知られる。

 

歴史と色濃く結びつく、方言の変遷

 このように、各地方で特徴が異なる山形の方言だが、共通点も多い。「イとエ」、「スとシ」、「ヅ(ズ)」と「ヂ(ジ)」の区別が曖昧だったり、「赤」などが「アガ」と濁音化し、「未だ」などと言う際、「ダ」の前に小さい「ン」が入る(鼻濁音化)という点だ。しかし、一部の地域ではそうでなかったという調査結果もあり、分布は非常に細かい。
 また、山形の方言も全国の方言の例に漏れず、奈良・平安時代に都で使われていた中央語に由来するものが数多く残されている。例えば「可愛い」という意味の「めんごい」は、元は都で使われていた「めぐし」が長い年月を経て伝わり、現在の形となった。置賜地方で「ありがとう」を意味する「おしょうしな」は、古語の「笑止」が語源といわれており、気の毒なこと・可哀想なこと、という意味が派生したと考えられている。同じように、最上地方で使われる「恥ずかしい、みっともない」という意味の「さだげね」という方言も、明確で正しいことを意味する古語「さだけし」に「ない」がついたものと考えられ、公明でない、始末がつかないことが「甲斐性なし」になり、現在の意味に変化していったと推測されている。このように、都で使われていた言葉が形を変えながら、各地にゆっくりと伝播していったさまをうかがい知ることができるのだ。

 

「方言は昔から使われてきた、
由緒正しき日本語という認識を持ってほしい」

 言葉はいわば「生き物」であるため、時代の流れとともに変わりゆくもの。しかし、その歴史や文化を知ることには大きな意味があるのではないだろうか。今回のまとめとして、方言研究のエキスパートに、方言を知り・学ぶことの大切さや面白さについてうかがった。
 昭和28年に発足した「山形県方言研究会」を前身に、平成27年より活動を始めた「山形県ことばと文化研究会」。会のリニューアルに合わせ、扱う分野は領域を広げ、現在は方言に限らず広く山形の言語文化を研究する会員が集まる。会員数は約20名で、年に一回集まり、研究成果の発表を行っている。
 山形大学で教授を務める中澤信幸さんは、同会の事務局も務めている。「方言は間違った言葉ではありません。はるか昔に使われてきた言葉が、方言から紐解かれることからもわかるように、由緒正しき日本語です。ぜひそのような認識を持って大切にしてほしいですね。近年では、地域おこしの観点からも見直され、若者を中心に考え方が変わってきています。方言の置かれている環境も随分変わりました」と話す。

 

中澤信幸さん


 

 三重県出身の中澤さんは、日本語の歴史を専門に研究。山形大学に着任したときには、西日本との言葉の違いに戸惑うこともあったが、「山形は地理や歴史的な要因から、地域によって方言の違いが顕著な点が面白い」と山形の方言を評価する。

 

「方言は社会性の育みとともに養われていくもの。
さまざまな言葉の存在を認めあうことが大切」

「山形県ことばと文化研究会」の会長である菊地さんは、平成27年に退官した山形大学の元教授で、民話などの研究過程で方言に関心を持った。「研究会をリニューアルし、間口を広げたことで、若い世代の参加を期待しています。同時に昭和28年の結成から蓄積されてきたものも次世代に受け継いでいきたいです」と話す。

 

菊地仁さん


 

 菊地さんは、「方言は、個々人の社会性の育みとともに養われていくもの」と説明する。テレビ文化が発達した現代においては、幼稚園や保育園に通う前はテレビから言葉を吸収することが多いため標準語が養われ、成長とともに地元の人との関わりが増えていくことで、方言が身についていくのだという。「今の若い世代は、標準語を話している方が多いですが、方言を話せないというわけではないようです。バイリンガル状態になっている人が多いのではないかと思います」と話す。
 同会としては、言葉の持つ伝統文化を明らかにし、保存していくことが重要であると、菊地さんは考えている。「方言は違う文化圏から来た人に言われて気づくことも多い。その土地で生まれ育ったがゆえの盲点もある。それは優越感や劣等感を持つべきものではなく、『なぜそのような言葉なのか?』という視点が、研究会をきっかけに少しでも広まっていけば嬉しい」と結んでくれた。

 

「〝南山形ことば〟調査報告書」(2016年東北文教大学 地域連携・ボランティアセンター発行)によれば、方言への印象は「親しみやすい」「気持ちが伝わる」などの肯定的な評価が上位を占め、近年では「味がある」「表現が豊か」の意見が増加しているようだ。また、若年層を中心に印象がポジティブに変化していることも判明している。
 また、山形県の方言グッズは、全国でもトップクラスにバリエーションが豊富という調査結果も出ている。国立国語研究所が運営する「ことば研究館」の調査によると、山形県の方言グッズの数は全国で6番目に多く、東北でも青森に続き2位。方言を積極的にアピールしているようだ。
 きっかけはなんであれ、自分たちや、他の地域の人が使っている言葉に興味を持つことが、方言、ひいてはその裏にある歴史や文化を継承していくことにつながっていくのかもしれない。

 

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