特集の傍流

2020.4.10

パッケージには理由がありました。歴史と意匠から見える背景とは。【前編】

2020年5月号(187号)やまがた百年パッケージ。
木村屋 代表取締役社長 吉野隆一さん、樽平酒造 代表取締役社長 井上京七さん、矢萩食品 社長 矢萩紘一さん
山形県鶴岡市、川西町、山形市

 見れば無意識下で山形DNAが反応するパッケージの魅力に迫る、特集「やまがた百年パッケージ」。まずはこの銘菓から。

 

平安から江戸中期の銅鏡をモチーフにした銘菓

 出羽三山の一つ、羽黒山の山頂にある三神合祭殿すぐ前の鏡池からは、平安から江戸時代の銅鏡が大量に出土しており、そのうち190面が重要文化財に指定されている。「古鏡」は特製のあんこで求肥もちをはさみ、銅鏡を模した銘菓で、1950年代後半から発売を開始し、半世紀以上愛されている。

 

「古鏡」(3個入り594円税込)の包装箱と包装紙。

 

落ち着きのある黄色の箱。贈答にも便利に

 鶴岡木村屋の吉野隆一社長は「当初は、『古鏡』という商品名と丸を描いただけのシンプルな包み紙でバラ売りしていたようです。販売直後から反響が大きかったため、私の祖父が贈答しやすいように箱をつくり、現在の販売スタイルになったと聞いています」と話す。
 3個入りの箱は、日本古来の奥ゆかしさを感じる黄色に、緑とオレンジ銅鏡をイメージした模様が描かれている。箱は当時から大きく変わることなく使用され続けているが、包装紙や紙袋のデザインは約10年前に一新した。

 

現在使用している包み紙のデザインの元となった銅鏡の写真を使ったしおりも同梱。商品説明が書かれている。

 

古鏡の包装紙。白を印象的に使って、明るさも演出している。

 

落ち着きと華やかさが共存したデザイン

 現在使われている包装紙は、庄内平野の豊かな自然を連想される深緑色をベースに、銅鏡をイメージさせるパターンがたくさん描かれたもの。鶴岡出身で県外の大学でデザインを学んだ、当時の従業員が考案したという。「販売を担当していた従業員が考えたので、店頭に並んだときに暗いイメージにならないようにデザインしてくれました」と吉野社長。落ち着いた色合いながら、白が印象的に使われているため、華やかさも感じられる。

 

包装紙について「上品さもあり気に入っています」と吉野社長。

 

伝統を「今」で包む。時代の流れによる魅力

 長年使われている箱はそのままに、現代の包装紙で包むことで、また違った魅力を加えた。これまでに関わってきた人たちのさまざまな想いを乗せながら、次世代にパッケージが繋がれていく。

 

 
 
 

「酔った」を意味する、置賜地方の方言を冠した酒蔵で
長年つくられ続ける辛口の代表銘柄。

 ところ変わって、1695(元禄8)年頃に創業したとされる川西町の「樽平酒造」。当初は「井上酒造」の名前で酒造りを行なっていたが、1928(昭和3)年、東京都の神楽坂に日本の居酒屋の中では元祖ともいえる郷土料理の店 酒場「樽平」をオープン。「たるへい」とは「気持ちよく酒に酔った状態」を意味する方言を指すが、1965(昭和40)年に社名も「樽平酒造」に改名した。

 

樽平酒造外観。

 

神社を模した、カラフルなラベル

 代表銘柄の「住吉」は、神社の欄干(らんかん)と御簾(みす)が描かれたラベルで親しまれている。「住吉」とは樽平酒造を起こした井上家の出身が関西のため、「住吉大社」が由来とも言われており、ラベルのデザインもそれに倣ったものではないかと考えられる。また、神社に祀られる銅鏡を模したようにもとれる円の中には、放射線状に「井上住吉」と朱色で書かれている。なんとなく見逃してしまいそうになるが、よく観察してみると随所に工夫があり面白い。

 

放射線状に書かれる「井上住吉」の文字が確認できるだろうか。

 

 このデザインがいつ頃から使われているかは不明だが、ラベルの欄外に「井上酒造」と書かれているものや、量り売りで使用していたと思われる徳利にも用いられていることから、かなり古くから使われていることがうかがえる。

 

 

 

中国の書家が書いた、実直な「住吉」の文字

 「十代目の祖父からは、中国の書家が書いたと聞いています」と、ラベルに書かれた「住吉」の文字について井上京七社長が教えてくれた。日本酒のラベルの酒名は、勢いのある「ひげ文字」など書き崩した書体も多くみられる中、「住吉」はトメやハネも丁寧に書いた落ち着きのある字を採用している。実直さも感じるこの文字には、5世紀に渡って樽平酒造が取り組んできた酒造りが現れているようだ。

 

 

住吉は漫画「美味しんぼ」で紹介されたこともある。

 
 
 

いまどき珍しい、全面紙包みの納豆。
なぜ鳩?デラップスとは? 知れば納得の事実。

 スーパーの納豆コーナーに足を運べば、ひときわ目を引くレトロな赤いパッケージ。山形市に社を構える『矢萩食品』の看板商品「はと納豆」だ。食卓でなじみのあるパックタイプもあるが、ピックアップしたいのが紙包みの「デラップス鳩納豆」。潔さを感じる中央の「鳩納豆」の文字、ゆるい雰囲気のシルエットの鳩、聞きなれない〝デラップス〟の文字……興味は尽きない。

 

紙パッケージ(右)同様、のちに販売されたパック納豆(左)にも鳩が舞っている。

 

「〝デラップス〟はですね、よく〝デラックス〟の間違いではないかと言われることもあるんですが、紙のメーカーの名前なんです。パッケージも、包み紙を取り扱った神戸のデラップス社が手掛けたものなんですよ」
 そう教えてくれたのは4代目社長の矢萩紘一さん。残念ながら神戸のデラップス社は現存しないため、なぜこのようなデザインになったのかは不明だが、当初は藁でつくった苞(つと)に入れていた納豆を、『矢萩食品』が紙で包んだのが1951(昭和26)年頃。それ以来ずっとこのパッケージを使い続けている。

 なお、包み紙自体の名前もデラップスというそうで、デラップスと呼ばれる紙や容器を使い、デラップスの名を冠する納豆が県外各地にもあることから、デラップスとはデラップス社が一括で管理、流通させていた商品なのではないかという推測も生まれる。

 

パッケージは外側からデラップス紙(ポリコーティングペーパー)、蝋紙、経木の三層包み。参考価格1個83円(税込)。

 

 それにしても、「鳩が豆鉄砲を食ったよう」という言葉もあるが、なぜ〝鳩〟なのだろうか? 聞いてみると、矢萩さんは笑いながら話してくれた。
「鳩は先代の発案なんです。昔から豆を食べると健康になるというじゃないですか。そこから、納豆を食べて健康になる、健康は平和につながると考え、平和の象徴の鳩にしたそうです。だから『鳩納豆』という名前になったんですね」
 その後、パック納豆を販売する際、子どもが「鳩」という字を読めずに「カラス納豆」などと呼ぶことが多かったことから、「はと納豆」と平仮名を使うようになったのだという。
 今では間違われることもないだろう、「ぽっぽっぽーの はと納豆♪」でおなじみの鳩には、納豆を食べる人の健康と平和を願う優しい気持ちが込められていた。

 

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