特集の傍流

宮本武典

2016.4.7

街、人、そして可能性をデザインしていく様々な仕掛け。 一人ひとりが共有していけば、山形はもっとオモシロクなる。

2016年3号(137号)本のある生活/山形ビエンナーレ
宮本武典さん
東北芸術工科大学センター准教授・主任学芸員

「もし私が学生なら、こういう勉強をしたかった」と思ってしまった。それほど興味深い話を聞くことができた。街、人、そして可能性をデザインしていく様々な仕掛けのこと…。アーティスト、学生、市民、観客等、参加する一人ひとりが「ともにつくるプロセス」を共有し、つくり上げていく芸術祭として展開してきた東北芸術工科大学主催の「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」。二回目となる2016年は「本」がテーマ。東北芸術工科大学准教授で、プログラムディレクターでもある宮本武典さんの研究室にお邪魔して話を伺った。ドアを開けると、これまでの山形ビエンナーレのポスターや「山」を形づくったブックスタンド等様々なツールが目に飛び込んでくる。

 

宮本さんはキュレーターとして展覧会等を企画し、新しい価値をプラスしながら山形の魅力を発信し続けている。作業を続ける中で、展示会終了後もコンテンツを残す仕組みをつくっていけないかと考え続けてきた。山形ビエンナーレのプロローグとなる「山形じゃあにぃ」を山形出身の絵本作家荒井良二さんと始めたのもそうした思いから。絵本はビジュアルを見せるだけでなく、言葉も付いている。町全体を物語にして、絵本がそのまま空間に飛び出すようなイメージの市民参加型アートフェスティバルを立ち上げたのだ。

 

山の本棚

「みちのおくつくるラボ」のメンバーが作った「山の本棚」に並ぶ、宮本さんが発行に関わった本たち。

 

「本×アート」が今、いちばん面白い。

山形ビエンナーレでは、アーティスト、学生、市民、観客等、参加する一人ひとりが「ともにつくるプロセス」を共有し、つくり上げていく芸術祭として、様々なプログラムを展開している。芸術祭を“みんなでつくるワークショップ”として捉えているのだ。「主会場となる山形はコンパクトな町なので、一人ひとりが自分の夢や可能性を捉えるにはちょうどいい大きさだと思う。」という宮本さんの話に納得する。

 

宮本さんの出身地である奈良県との違いを尋ねてみた。「奈良との違いは魅力が可視化されていないところ。京都や奈良は町を歩いていれば、なんとなく空気感が伝わってくるけれど、山形は一歩、中に踏み込まないと魅力に出会えない。知りたくても、ハードルが高い。地元の人に聞かないとおいしいものにも出会えないみたいな、そういうところも魅力の一つなんですよ。教えてくれるキーマンがいればすごくおもしろい山形に出会える。僕らが知りたいのは誰もが知っている観光地や情報ではなく、今、その土地で暮らす人たちの声です。」

 

宮本武典

刷り上がったばかりの「みちのおくノート」をはじめ、自ら企画・編集を手がけた書籍のことも話してくださった。

 

さらに話は続く。「よく山形の人は発信ベタって言いますが、それは情報を扱うよりもモノを作る最初の現場にいる人が多いから。“何もない”じゃなく、保守的だからこそ残ってきた価値観があると思うんですよ。だから、僕自身は発信ベタということに対してネガティブなイメージは持っていません。」外からの目線と、生活者のリアリティな部分の両面から山形を見ていくと、新たな魅力を発見することができる。市民を巻き込みながら、そうした魅力を広く発信できる人を発掘していく。地域の魅力を発信していく人が増えれば、地域の活性化に繋げていくことができる。目に見える部分だけがアートやデザインではない。アートという手法で、見えない可能性や魅力を引き出していくこともできる。最近の山形はデザインというキーワードのもと、楽しいことが始まっている…宮本さんの話を聞いてそう思った。(M)

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