特集の傍流

2020.8.12

果たせなかった夢や縁を、〝絵馬〟に描き成就を願う〝むかさり絵馬〟

2020年9月号(191号)郷に伝わる奇しき物語。
鈴立山若松寺 氏家榮脩住職、鈴木純照教務、むかさり絵馬絵師 高橋知佳子さん
山形県天童市

 本誌特集の巻頭で紹介した〝シン〟とは、〝神〟か、〝心〟か、そのどちらでもないのか。黒木さんのもとに寄せられた実話や黒木さんの実体験を鑑みると、その現象が〝真〟であることを否定することはできない。一般的には〝虫の知らせ〟や〝お迎え現象〟ともいわれるそれらについて、興味深い論文があったので紹介しよう。

 

信じる信じないに関わらず
本能で受け止める

 宮城県の医師で故・岡部健氏※が2007年に発表した研究調査論文によると、仲間の医師や母校である東北大学の社会学者らと一緒に、それまで看取った700人近い患者の遺族にアンケート調査を行った結果、366人の遺族から回答が寄せられ、そのうち42.3%が「亡くなる前に〝お迎え現象〟があった」と答えているという。
『むかさり絵馬』奉納を行っている若松寺(天童市)の氏家榮脩住職も、「奉納のあと、恩師の枕元へ故人が婚礼報告に来たとか、遺族の縁談がまとまらず困っていたが、供養後に解決したいう後日談がありました」とも。こうした現象は、信じる信じないを超えた本能の部分で感応するしか術がないのである。

 

鈴立山若松寺の氏家住職。「ここは最上札所の第一番霊場である若松寺堂が鎮座する場所。あの世でも良縁成就を祈願します」

 

 仏教の三大事に、生きること、死ぬこと、そして因縁(結婚)があります」とは若松寺の氏家住職。仏教では結婚は前世からの因縁で、先祖の慈悲によると考えられるのだそう。若松寺といえば〝縁結び〟で知られるお寺だが、この『むかさり絵馬』供養に関しても、江戸時代から続けられてきた歴史を持つ。最上・村山地方を中心に伝わる俗習ではあるが、いまも全国から奉納に訪れる人が後を絶たない。

 

若くして亡くなった遺族のために、結婚式の絵を描き奉納する『むかさり絵馬』。長年奉納に携わる若松寺の鈴木教務。

 

 絵師・高橋知佳子さん(東根市)に話を伺った。「不思議な出来事として覚えているのは、いつも花嫁姿を描く際は、手を重ねたポーズを描くんです。でもなぜかある時、開いた扇子を両手に持たせた絵を描いたことがあって。そうしたらその花嫁さんが〝指輪〟がほしいと伝えに来たんです。ああそれでか、このポーズなら指輪が描けると納得しました」と高橋さん。

 

絵師の高橋さんと、高橋さんが描いたむかさり絵馬の絵。

 

 またある時は「足袋がない」と声がしたという。「それを花婿の親族に伝えたら、骨肉腫で亡くなったので死装束に足袋を履かせられなかったと。仏壇に供えてもらったら、今度は足袋を履く姿が見えた」そう。
幼い頃から画家になるのが夢だったという高橋さん。それは希望ではなく、選ばれし能力由縁の宿命ではないだろうか。

 

高橋さんが絵を描く際に使う画材たち。

 

死者との結婚はスタンダード?
じつは各地に残っている『冥婚』

 死者との結婚『冥婚』は山形以外にも存在します。青森県の一部には結婚前の女性が死ぬと花嫁人形を奉納する風習があり、同県つがる市の弘法寺にはおよそ九百体の人形が納められています。沖縄では交際していた男女が結婚できずに死ぬと、同じ墓に入れる『グソーヌニービチ(後生の結婚)』が残っています。また、台湾では結婚できずに亡くなった女性の遺族が、故人の写真や髪の毛を赤い封筒に入れて道ばたに置くそうです。これを拾った男性は亡き娘と結婚を強要されるのだとか。これも変則的な『冥婚』といえるでしょう。(黒木あるじ氏)

 

※僧侶から転身して医師になり、看取り先生の愛称で慕われた。在宅ケアの医療法人「爽秋会」を主宰し、200名以上を看取ったがんの専門医。心のケアを行う臨床宗教師発足の立役者とも。2012年逝去。

 

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