特集の傍流
山形で伝承されてきた摩訶不思議な風習や言い伝え。 それらを怪談作家・黒木あるじ氏の考察とともに読み解きます。
怪談作家 黒木あるじさん
山形県山形市ほか
県民性が垣間見える山形の風習や迷信を
今回の特集は山形県在住の怪談作家・黒木あるじさんを監修に迎え、県内に伝わる独特な風習や謂れを紐解きながら、異形のものに対する向き合いかたなどを通して我々の県民性を知ろうというもの。
この特集が実現する運びとなったきっかけは、約半年前に黒木さんと交わした会話から。「いまね、山形県内の不思議な話をいろいろ集めているんですよ」とあるじさんが放った言葉に反応した我々編集部。
「山形に不思議な話なんてそんなにあります?」
「それがね、あるんですよ。もちろん怖い系のもいろいろありますけど、山形県は土地に根ざした俗習なんかも面白いのが多いんです。そして県民性なのかどうか、そういう得体の知れない現象を否定するでもなく、普段の暮らしの一部として受け入れている。そこが特徴的だと思うんです」とあるじさんがいうのだ。
そんなあるじさんのもとに寄せられた、とある町に伝わる奇しき現象についてひとつ。
「シンがくる 黒木あるじ/著」
人が死ぬ前には、シンが知らせにくる──西川町の一部にいまも伝わる俗信だが、これは単なる噂や迷信ではない。たとえば七十代の女性はご主人が入院していたある夜、家じゅうの雨戸や窓がばんばんばんッと叩かれる音を聞いた。飛び起きて外を確認したが誰もいない。「ああ、これはシンが来たのだ」そう確信した翌朝、病院から夫の訃報が届いたのである──。
私は、この話を西川町で催された怪談会の席上で聞いた。会場には他にも「自分のところにもシンが来た」と証言する方が複数おり、私は初めて知る〈シン〉なる存在と、体験者が多数いる事実に感動していた。
まさか、自分の家にもシンが来るなどとは思わずに。
その年の冬、家のチャイムが鳴った。誰だろうと玄関へ出てみたが、無人である。にわかにシンの話を思いだしてゾッとしたものの、家族や知人に危篤の者はいない。「空耳だ」と自分に言い聞かせていると、まもなく再びチャイムが鳴った。立っていたのは警官で「真下の階に住む男性を知っているか」と訊ねてくる。聞けば自室で孤独死しているところを。先ほど発見されたのだとか。つまり、さっきのチャイムは男性が──そう、シンはちゃんと来ていたのである。

人々の暮らしとともに長年受け継がれてきた建物は、その佇まいだけで雄弁だ。
「黒木あるじと ひがしね百物語」第三夜 開催告知
怪談作家・黒木あるじさんがナビゲーターとして登場する恒例イベントの第三弾。「ひがしね百物語」の第三夜が、下記の日時で開かれます。40名定員の先着順ですので、参加申し込みはお早めに。
◯「黒木あるじと ひがしね百物語」第三夜
2020年08月22日土曜日17:00~19:00
まなびあテラス 市民ギャラリーにて
定員40名(申込先着順)
https://www.manabiaterrace.jp/event/support-center/hyakumonogatari3/
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