2025年12月号（254号）
特集｜カラダに効く、効いた　逸話のもとへ
山形県村山市湯沢

祈りを捧げる場所へ（その弍）

作家・黒木あるじさんと往く、不思議をめぐる探訪旅。今回は「病」を抱えた先人たちが、平癒を願って祈りをささげた現場を訪ね、その逸話の由来を紐解きます。暮らしと健康に密接にかかわっていた知られざる郷土の物語をお届け。

いまもむかしも避けられないもの

病気や厄は予告されるものではなく、ましてや自らの意志で避けられる類のものでもない。医学の進歩によって、治療や予防の域は現在進行形で大きな進化を遂げているとはいえ、どんな病も完治する魔法の薬は人類にとっていまだ夢物語の存在だ。

信じるチカラこそ平癒への近道か

だからといって何もせず、ただ病に蝕まれていくことを良しとするのは否だ。神様仏様に祈りを捧げ、降りかかった厄を取り払おうと手を合わせる。そうした気持ちや土着の習わしこそが尊く、いまなお大切にされている所以ではないだろうか。

あるじルポ／餅でこすれば、頑固なイボでもなくなる？なんとも奇妙な信仰を持つ田の神様

「神の田」を冠した土地にある田園のまんなかに、その社はぽつんと建っていた。祀られているのは保食神──まさしく田んぼの守り神だが、同時に「餅でイボをこすって供えるとイボが取れる」との言い伝えでも知られた祭神でもある。イボを取る神仏は全国各地にあって、山形県でも「イボ取り地蔵」が10ヶ所以上存在する。先述した歯痛同様に、イボは〈命に直結しない病気〉として庶民を苦しめていたのだろう。

じつは神田神社へ到着する直前、私はスマホのナビに誘導され〈もうひとつの神田神社〉を訪ねていた。同名の神社が甑山の麓に存在したのである。方角的には〈山の神田神社〉と〈田の神田神社〉の鳥居は、数キロの距離を隔てて向きあっている。もしや二基の鳥居は出入り口で、神田神社はもともと山の神だったのではないか。山神には、春に里へおりて人々の農作業を手伝い、秋に山へ戻っていく者がいる（余談だが、これは河童の習性とも合致する）。だとすれば、神田神社は里山を統べる原初的な神だったのかもしれない。農村のささやかな営みを支える神が、ささやかな悩みのイボも取る──なかなか興味深い仮説だとは思えないだろうか。（黒木あるじ）

ご馳走の「餅」を供えれば
頑固な“石いぼ”も退散

創設年代は不明であるが、文政年間（1818年）頃より田の神様として湯沢地区の守護神として崇められている。地名の「神田」をとって「神田さま」として地区内の氏子たちによって200年以上守られてきた。祭典は7月17日の「虫送り」と8月31日の「風祭り」の2回行っているが、平成4年までは11月19日に「神田講」として氏子が集って祭りをおこなっていた。そもそもは稲荷神社であり主祭神として保食神の「田の神」であるが、「石いぼの神様」として多くの信者があったという。
村山市湯沢1597（田の方）
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村山市湯沢 甑岳登山道入口（山の方）
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