訪問先でかけられる言葉やもてなしに、真室川の人の温かさを実感。

2024年6月号(236号)
特集|ローカル駅おさんぽ旅
真室川駅(真室川町)

真室川の人たちと話しているときに感じたのが、自分たちは鳥海山(日山)の麓の民であるという認識があるということ。たしかに方言は県内陸地方のズーズー弁ではないし、寒天で食材を固めて食す食文化もある。また、遊佐町のアマハゲ同様に日山を崇める仮面の踊り「日山番楽」が各所に残っていることから、真室川はどちらかというと秋田寄りの習俗が色濃い印象だ。そして道ゆく先々で出会った人たちはみなオープンマインドで柔和に接してくれる。訪問先でかけられる言葉やもてなしに、真室川の人の温かさを実感した小旅であった。

真室川駅の連絡通路から秋田方面を眺む。

金の鯱が屋根に踊るまるでお城のような駅舎

2003年に改築された木造2階建ての駅舎。入口には「森の停車場」の看板が掲げられ、館内は町内で採れた新鮮な野菜や山菜、惣菜、菓子類などが並ぶ産直ショップになっている。店舗に併設するきっぷ売り場には町の職員さんが常在しており、明るい声の「いらっしゃいませ」が出迎えてくれる。

路線は山形県内を縦断する奥羽本線。JR新庄駅を出発し、のどかな田畑を15〜16分ほど走れば町の中心部にある真室川駅にたどり着く。休憩所には「まちなか図書館構想」の取り組みの一環としておよそ150冊の図書が並び、町民憩いの場となっている。

金の鯱がある木造駅舎は材木の町の名残を感じさせる。
1日の平均乗車人員※は79人。通勤通学の時間帯を中心に上り線10本、下り線8本運行。※JR東日本発表(2022年度)

5時間ほどの滞在で町民の温かさに触れまくる

まずは降り立った駅舎内で地元の野菜や山菜をチェック。朝採れ品を見逃さず手に入れたら、向かう先はパブ&レストラン『リンダ』。昼はランチ、夜はバーとして営業する地元で愛されている店だ。お腹が満たされたあとは『真室川町立歴史民俗資料館』を見学。山仕事で栄えた町の歴史に触れる。そのあと駅方面へ折り返し『平和堂』の米粉スイーツをゲット。さらに旅の土産をもうひとつ、知る人ぞ知る名酒「やま富近岡」を販売する『近岡商店』へ。真室川町産の酒米で仕込まれた限定の純米吟醸酒に出合えたらラッキー。最後は「お食事処一楽」で仕上げのラーメンを。帰りの電車に乗り込む頃にはきっと心も満たされているはず。

1. 森の停車場
旬の野菜や加工品、山菜もきっぷ売り場の隣で会計

駅舎内にある産直ショップ。朝採れの野菜や果物、山菜などがところ狭しと並ぶ。地元小売店手作りの惣菜のほか、加工品、伝統工芸品まで揃う。

駅の待合室にある「えき・まちなか図書館」
真室川駅のきっぷ売り場
魅力的な本がお出迎えてくれる中央公民館玄関ホールも「森の停車場」と同じく「まちなか図書館構想」の取り組みの一環だ。
「森の停車場」産直ショップ
駅名標の隣には、地元の民謡「真室川音頭」にかかわる石像が鎮座。

2. パブ&レストラン リンダ
ボリュームもおいしさも格別老若男女で賑わう人気店

鉄板で提供されるハンバーグやナポリタン、ポークソテーのほか、デミカツやカレーなどの洋食が食べられる。昭和の香りをまとった店内も雰囲気抜群。

ボリュームがあるが後味が軽く一気に完食できたナポリバーグ。
昭和のスナック感を醸すリンダ店内。ライブ演奏も催しているのかドラムセットやアンプもある。
長閑な田園風景を背景にポツンと佇むリンダ

3. 真室川町立歴史民俗資料館
町が歩んできた歴史とゆかりの作家作品を愛でる

山林に関わる仕事と暮らしを実物の道具やジオラマでわかりやすく展示。2024年5月8日からは真室川町出身の洋画家・佐藤正弥の水彩画作品を集めた企画展を開催。

真室川が発祥の窓ノコギリなど約200点のノコギリのコレクションを展示。取材では館長の髙橋剛文さんが形状や大きさの違いについて丁寧に説明してくださった。
その年の病や災いをわら人形に追い払ってもらうための「病追い(やまいぼい)」は真室川の伝統行事。
真室川町内の山林に生息している(いた)動植物の標本。
鷹狩の伝統的技法を実践する“最後の鷹匠”と呼ばれた沓沢朝治(くつざわあさじ)像と解説も展示。
山林資源に関わる生活の資料が豊富に残る。
日本独特の版画技術を受け継ぎ、広重の「東海道五十三次」などの復刻を実現した同町出身の世界的な版画家「中川木鈴」を紹介する常設コーナー。

4. おかしの平和堂
タルトやジュレになった伝承野菜スイーツはいかが?

甚五右ヱ門芋(里芋)の米粉タルト275円や勘次郎胡瓜のジュレ248円、黒五葉の黒豆モンブラン545円など最上地域の在来野菜がスイーツに!

タルト甚五右ヱ門。とろりとした食感と特有のねばりとしっかりした芋の風味がある菓子。
和風ミッドセンチュリーのポップな雰囲気が漂う店内

5. 近岡商店
真室川産の酒米が華麗に変身。美酒「やま富近岡」

純米ならではの旨みとフルーティさが評判の純米吟醸酒。美山錦、雪女神それぞれの新酒が5月中旬に発売される。やま富近岡の酒ケーキは1,490円。

自社商品である人気の純米大吟醸やま富近岡「雪女神」、純米吟醸やま富近岡「美山錦」。醸造は昭和初期からの交流がある山形市の『秀鳳』に委託している。
自社商品の清酒を生地に含ませた「やま富近岡酒ケーキ」などオリジナルな発送の商品を開発・発信している。

6. お食事処 一楽
おすすめは唯一の味わい、あんかけ醤油の一楽ラーメン

定食、天重、カレー、とんかつ、ラーメンと多彩に揃う。写真の一楽ラーメン800円は珍しいあんかけ醤油味。旅の人も地元の人も癒される町の食堂。

あんの強い粘りが特徴の「一楽ラーメン」
大きなカウンターが居心地の良さを引き立てる。

JR奥羽本線真室川駅

最上郡真室川町新町、開業年:1904年(明治37)10月21日、総延長距離:484.5km、起点:福島駅、終点:青森駅、駅数:103(貨物駅含む)

真室川町の成り立ち

秋田県と接する県北の町。古くから林業で栄え、最盛期は全長28kmの区間を運搬用トロッコ列車が活躍していた。梅林公園や米の名産地として知られ、原木なめこの発祥地でもある。

真室川駅から車で7分走れば

『まむろ川温泉梅里苑』は日帰りでも利用できる温泉、宿泊施設、キャンプ場を備えた複合施設。敷地内約1kmの森のなかをかつて町内で活躍したトロッコ列車が走っている。運行は11:00、13:00、15:00。

林業とともに歩んできた真室川町の象徴として「近代化産業遺産」に認定されている「森林トロッコ列車」。

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